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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

六月十六日

六月十七日

谷崎氏が其をこわがってこわがって逃げ廻って居るとか、岩野泡鳴氏の御通夜のとき、二つに分けたおすしの大皿の一つに陣どった彼の傍に近づくものがなかったとか。思想家でも、こういう生命の瀬戸際に成るとあやしく成るものだろうか。近よって、まるで自分を厭わない人の居るのを見出したい心持を考えると、涙ぐまれる。一つの材料であろう。

六月十六日 水

夕立のような雨が降る日である。よくお父様がおっしゃる通りのことをして――椅子の上に一寸置いて――大切な眼鏡をみっしりと破ってしまった。ハリスのところへ云ってやるほかあるまいかとも思ったが念のために順天堂にきき合わせて、村田長ベエの店に行って見る。合羽も何もずくずくにぬれるほどの大雨の中を五時に飯□□洋服屋が来ると云うので、大いそぎで行った。出来ると云う。有難い事だった。帰りの電車の中で、男が二人喧嘩を始め、仲なおりが出来たかと思って居たら、団子坂で降りると、いきなり一人年上の男が傘をふりあげて、血の出るまで相手をなぐった。肉体に当る音。

六月十七日 木

午後一時に上野を立って、開成山に来る。Aに送って戴くのを強いてことわった自分の心持は、自分のうちに多分に在るセンチメンタルを前もって圧えたい希望からである。