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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

六月二十日

実に。自分は其那に不注意だったのだ。勿論、急いだから、と云う云いわけは立つだろう。然し、其が第一のものではないのか。殆ど、此処に来た主要な目的を置き去りにして来たことは、決して自分の心の深い落付きや思慮を示して居るのではないのだ。自分は其那にAに夢中に成って居たのか、其ならば自分の心の中の何が夢中に成って居たのか。理屈を超えて自分は、非常に恥て居るのだ。

〔欄外に〕小麦の穂は黄色くなる、センダンがせいそな双の対葉の間にしぶい薄紫の花をつけた。

六月二十日 日

一杯に張りつめた雲の裏から、暑い日光が透いて来るような日。朝四時頃床に入って九時半頃、東京からの書留が来たので起される。「黄銅時代」の筋書の中に、Aのノート位入って来るだろうと思ったので、あけてやや失望に近い心持を感じた。

昨夜は、殆ど時を忘れて Saints' Progress を読んだ。Fine tales などに盛られている内容より、遙に深く強く而して真剣なものである。Noel という娘の心持、今まで自分に漠然と感じられた war baby の悲惨が深い同情と、無私な観察によって示されて居る。