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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

五月十日

世の中だ。恐ろしい見えない力が流れて居る世の中だ、と思わずには居られない。泡鳴氏が今死なれようとは思わなかった。とにかく、一人の人である。仮令、或意味から云うと悪い感化も文壇に与えたと同時に、自分の力で周囲を圧して居た人ではある。清子さんは、今頃仏国へでも向って居るのだろうか。自分達の生活に、感謝を捧げると共に、斯うやって置いて居られるものを畏れる。

〔欄外に〕Aのペルシア文学概論、アカメニアン朝終り。夜散歩に出て、小さい植木を買う。愛らし。

五月十日 月

夜は、高垣氏、水津氏と四人で中央亭に集る。髭をつけた高垣氏は少しふけて見える。相変らずの水津氏、九時頃出てから、銀座を歩き新橋で分れて、資生堂の前まで来ると、国男に会う。晴れたり降ったりする定めない天気であった。一緒に氷菓をたべて、須田町へより、藪へ入ってから家へ戻る。国男は仕合わせそうに見えた。夜一寸したことで、小さい衝突があったが、総ての幸福な夫婦の終るような結果に納る。Aの云った、私が総てを感情的に聞いて、感情的に答えるので、ことがむずかしくなるのだと云ったのは、自分の大きな欠点を示して居ると思う。