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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

五月三十日

風邪がすっかりよく成って居ない故なのか頭が重い。第一天気がどんよりとしてちっとも五月の軽快な日光を見られないのが悪いのだ。不平は云うまい。然し生理的に不健康に成ると、心は少なからぬ不安と動揺とを感じさせられる。

五月三十日 日

大瀧の叔母朝来訪、祝にと云って着物をくれる。然し自分は不思議な心持がした。同じ祝をくれるなら、そしてその祝が真に私共の結婚をよろこんでくれるものなら、何故私か或は彼が帰って来た時にくれる心持に成らないか、私共の方から食事に招待して始めて何かをくれる――。そういうとき、うけるものは、物質をのみ受取るような心持に成って来る。

今朝Aに助けられて元の部屋に戻る。少くとも気が落付きそうに思われる。何と云ってももと幾つかの仕事をした部屋だ。『白樺』の十周年記念号から切抜いたドストイェフスキーの写真を正面の壁にはる。彼の霊に満ちた、苦しみぬいた表情は、私の中の心を呼び出してくれる。

イタリーの飛行機大阪着、九十五時間、日数百幾日、とにかく始めてイタリーと日本との間を結びつけたのは、日本人ではない。イタリー人だったのだ。其を覚えて居れ。日本人の先輩は後輩が熱意を以て其を申出たとき「君はまだ若いよハハハハハその元気をなくさないように仕給え」