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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
もう女としてのつとめがおしまいになったのだろうと思ったからだの異状が妊娠と判った時、いねはあまりのことに青くなり、重吉は重吉で無事に生めるだろうかと年とった妻を眺めた。やせこけて老婆のように目はくぼみ、今さらどこに母となるべき力がひそんでいるかを疑わせるほど衰えてしまっているいね。そのいねの妊娠は村じゅうどころでなく近村の噂にも上り、中には無遠慮に、
「四十四の尻ざらい、四十五の業ざらしというがおいねさんは何ぼになりゃあ」と聞く人もいた。いねはその時四十六であり、生むのは年明けのことになるので四十七になる。ふが悪い、とこぼすと重吉は、
「何のふが悪い、不義の子じゃあるまいし」と声を荒げるのもはげましの気持から出る言葉であった。そうした中でいねはしだいに肥立っていった。重吉は遠い町までふりだし薬を買いに行ったり、子安地蔵の守り札を受けてきたりした。どうでも無事に生ませたいと希い、どうでも無事に生まねばと心がける二人は、今までのどの子にもしなかった用心深さで薬風呂を立てたり、毎日生卵をのんだりした。それでもいねはなおやせ細って顔が長くなった。大きな腹を抱えてくる日のことを案じ、日ごと夜ごとを針を運んでこまこまと先々の片づけものをして暮した。