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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
ででかけたのであった。長男の隼太も任地の高松で嫁を貰っているし、長女のミチは醤油会社の杜氏をしている男に嫁入り、広島で世帯を持っていた。考えてみれば、いねはわき目もふらずに子育てに明け暮れた三十年に近い月日が永かったとも短かったともいいようのない思いであった。ましてここ十年の労苦はいねの頭を年よりも白くさえしている。
――これからはたまには金比羅詣りくらいできるじゃろ、そしたら隼太の所で洗濯をしてやったり、ミチの所へも行って一月くらい手伝い、宮島さんへ案内してもらおう――。
いねは、ありきたりの母親の持つ望みを自分もやはり持っていた。そう考えることで永い人生の峠に腰かける場所を見つけたような喜びがあった。腰かけはでこぼこの石であろうとも木の根であろうとも、疲れが休まるにちがいない。この世の女の負わねばならなかった重たい荷物、それをちょっとの間でも肩からはずすことのできるという心のゆとりが、今はじめて自分にもめぐってきたように思えた。そう思う気持の次には、これからは孫の世話も見ずばなるまいと、本能的にまだ形のない孫へのあこがれを持つのであった。
そんないねに、一大事が持ち上ったのである。