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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
かやはその土をじかに両手に掬い、
「これでお父つぁんも安心したろうわい」と、もう一二年で甚作の年配になる息子の年とともに父親に似てきた顔を眺め入った。船乗りばかりはこりごりだと、重吉は職人にならせた。かやは甚作の死目に会えなかった本意なさを終生その心から離さなかった。自分は重吉一人しか生むことができなかったが、次々に生れる孫どもに、かやは我子に聞かせるような気持で、甚作どんの話を語って聞かせた。お祖父やんと呼ばずつい口ぐせのように甚作どんと呼ぶことなど、甚作どんに関する限りではかやの気持は二十六の若さでさえあった。
「甚作どんはなあ」またある時は「おじやんはなあ」と、かやが口を切ると、何十ぺん、何百ぺんとなく聞かされて、そのことではかやと同じほどの言葉を宙で覚えこんでいる孫たちは次に続くはずの言葉を引きとって、
「コロリにかかってな」という。かやがコレラのことを今だに昔風にコロリということが、小さい者たちにはおかしかった。かわるがわるに、
「イセのマトヤで死んだんじゃ」
「ヒヨリヤマというとこに墓があるせになあ」
「大けになったら皆銭を儲けてな」
「墓いまいってあげよ」