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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
したような琴代のために泣きながら乳をしぼり、小さい硝子瓶の口までいっぱいにみたして、琴代の小さい棺の中へ入れてやった。いねは起きて浜辺の自分の家へ戻ってきた。
そのころを頂上にして日向一家は坂道を下るように窮乏の中へ落ちていった。それは重吉の持つ得意先の三軒の醤油屋のうち二軒までが関西の商人にかけ倒され、ほとんど同時に逼塞していったのであった。ううん、と唸りこんで煙管を銜えて思案をする重吉に、いねもかやもよい知恵が出てこなかった。とんこ、とんとん、夜なべの槌の音も響かず荒神様の森はいつまでもひっそりとした日がつづいた。桶を作ったり、お櫃をこしらえたり、時には近くの村の醤油屋へ臨時の手伝いに雇われていったりした。そうしながら一人一人の弟子にそれぞれ新しい親方を見つけてやり、家の方は千吉と二人になった。千吉はもうその時二十二になっていた。ゆくゆくはミチの婿にして家業を継がせようというのが重吉のはらであったが、いつの間にか好きな女ができ、もう子供まではらんでいるという噂さえあった。千吉もそれを素振りに現し、自分だけをいつまでもくくりつけておく親方への不平をその子供たちに持っていった。