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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
時々かやはアグリを見に行った。あまり大事にされて下へは寝ず抱いて育てられているらしいアグリの様子を見ると、かやはだんだんよその子になってゆくような不安を感じ、早く取戻さねばと思った。しかし、いねはアグリの産後いっさいの物音に頭が病め、生家の隠居所に起き臥しをしていた。眉間にいつも深い立皺をよせ、蒼い顔をして手拭で鉢巻をしていた。そんなありさまなのでしかたがなかった。かやはその時七十の老体をいねに代って世帯を切り回さねばならなかった。自分がいいだしてアグリなどと欲ばった名をつけたことを、かやは何度も口に出して、まるでそのことがいねの病気のもとででもあるかのように悔んだ。
アグリに乳を呑ませなかったせいかいねは今までより早く次の妊娠をしていた。もしやと思ったがやはり女であった。重吉が琴平へいねの願ほどきに詣っている留守にできたので琴代とつけた。珍しく髪の毛の濃い、目のぱっちりとした子であったが、一か月たたないうちに死んでしまった。血の道という病気は次の子供が生れると癒るといわれているとおり、いねはもとのからだに戻り、眉間の立皺はとれていた。乳がありあまるほどあったのでアグリを取戻そうという話も出たがどちらになってもアグリにはもう乳は要らないはずだと、いねは自分の健康を取戻してくれるためにこの世へ生れてきでも