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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
いねはあとの言葉もなく子供たちを見た。調べてみると店の商品はほとんど不足していないものはなかった。売った覚えのない上物の墨が二本もなくなっていたり、一ダース仕入れた細筆が一本も姿を見せなかったりした。
そのころから重吉は小さい舟でいろいろなものを近回りへ運ぶ海の上の便利屋のような仕事をしていた。いねはせめて馴れぬ重吉の仕事の手助けにと、子供相手ならばかけ倒れもなかろうかと始めた文房具店であったが、これでは商売には見切りをつけねばなるまいと思った。からだをもとでに働いてきた者にはやっぱりそれよりほかに安心してやれる仕事はない。重吉もいねも同じ意見で店をしめてしまった。隼太が学校を出たとしても十八円の月給では家へ足してはもらえまい。借金はしだいに利を生んでどうにもならないどたん場が目前に迫ってきた。
「御破算、御破算か」
重吉は家も畑も売ってしまって小さい借家に移った。残ったのは大勢の家族と、そして重吉の近来の希望をむりに生かして大小二本の帆柱のある古船を買いこむことになった。今までのように、近村ばかりを行ったりきたりするのでなく、仕事次第で四国へも中国の港々へも乗りだそうというのであった。