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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

「いつもかつもどう気儘いいくさって!」

不思議なほどの大声で呶鳴りつけると、カヤノはきゅうに泣きだし、そこにクニ子や実枝がいることもかまわずに、ただでは聞くに堪えない言葉で訴えた。徳市が金比羅の帰りの汽車の中で酔い痴れて、一糸まとわずに演じた醜態を叩きつけるような早口でいって、畳に顔を伏せ、子供のように号泣した。

「みんなの前でで、気色の悪い、みんなの前でで」

それには重吉もいねも二の句が継げず、黙ってカヤノの泣きじゃくる背中を見ていた。大勢の連中といっしょに汽車をまた船に乗りかえ、村へ帰りつくまでのカヤノの身の置きどころのなかったであろう辛さがよく分り、いねは固い決意を胸の中へ据えた。二三日すると表面の仲人である村長の夫人が来た。元木に勝るうら木なしという諺を話して聞かせ、誰も何もいわんことにしてしばらく休んだら戻ってきてくれとやさしい声を出して帰っていったが、カヤノは二年間のその家の生活にいささかの未練もなげに広島のミチを頼って船に乗った。やがて荷物が戻ってきたので、着のみ着のままのカヤノに着類を送ろうかと手紙を出すと、皆売払ってくれという返事が来た。