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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
ひところは膿の流れでるような八重の病状を見てはその将来を案じてのあまり、どうせ癒らぬ病気であるなら自分たちの生きている間に死んでくれた方がこの子のためにはよいのではなかろうかとまで変形的な愛情を傾けたいねであったが、八重自身はそんな病気の中でいつか経済的にも一家のぬきさしならぬ一役を持つようになり、どうかすると一家の中心であることを感じさせさえした。今では結婚できないということが一つの安心となり、それで八重の健康も保たれてゆくであろうし、どうかすれば自分たちの死水を取ってくれるかもしれない。そういう依頼心をいねは無意識にではあるがいつか八重に求めるようにさえなっていたものであろうか。病身なために縁談もなく、高子の方にばかりそんな話が集ってくるのを見て、いねは八重の気持の動揺をおそれ、
「八重もこのごろぐらいに達者なら嫁にもゆけよう」と、慰めるようにいったこともあった。しかし八重は親が案じるほどの気持のゆらぎも見せず、高子のためにその将来をまじめに考えてやるゆとりさえ持っていた。
そんなことに安心しきって、自分はその後も八重の娘心に迎合するようなことをいったのだろうか。