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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

それで、ぜんたいに憔悴して見えたが、肩を張って端坐した姿勢や、屹と額をあげた顔つきには、昂然とした意気があらわれていた。

勘解由は、自分が訊問に当っていいか、と甲斐にきいた。甲斐は他の五人の意向をきいてから、よろしいと答えた。勘解由は兵部を見た。

「うん、おれも立会おう」と兵部は云った、「おれは伊達一門、分家として審問を聞く」

勘解由は兵部に礼をし、座をすすめて、訊問をはじめた。

午後のつよい日光が、深い庇をすべって、縁側の端に照りつけていた。仕切り塀をまわした坪庭には、高さ一丈ばかりの槇の木が五本あって、庭の白く乾いたぎらぎらする裸の土の上へ、染めたように黒く影をおとしていた。

甲斐はその黒い木影を眺めていた。

――良源院へゆかなければならない。

彼はそう思った。

――畑の子供たちが今朝ついた筈だ。

――それから湯島へも。

彼はまたそうも思った。

――だが、律はなんで出て来たのだろう。

彼は審問には興味がないようであった。少なくともその態度はそのようにみえた。兵部の眼はそれとなく、そういう甲斐のようすを絶えずうかがっていたが、甲斐はそれにさえ気づかないふうであった。