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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

摺り染めや、擣ち染めの技術も、女たちの間には、目立たぬ進歩が年々にあったが、浸で染めの為の染料が、韓の技工人の影響から、途方もなく変化した。紫と謂っても、茜と謂っても皆、昔の様な、染め漿の処置はせなくなった。そうして、染め上りも、艶々しく、はでなものになって来た。表向きは、こうした色の禁令が、次第に行きわたって来たけれど、家の女部屋までは、官の目も届くはずはなかった。

家庭の主婦が、居まわりの人を促したてて、自身も精励してするような為事は、あて人の家では、刀自等の受け持ちであった。若人たちも、田畠に出ぬと言うばかりで、家の中での為事は、まだ見参をせずにいた田舎暮しの時分と、大差はなかった。とりわけ違うのは、其家々の神々に仕えると言う、誇りはあるが、小むつかしい事がつけ加えられて居る位のことである。外出には、下人たちの見ぬ様に、笠を深々とかずき、其下には、更に薄帛を垂らして出かけた。

一時たたぬ中に、婢女ばかりでなく、自身たちも、田におりたったと見えて、泥だらけになって、若人たち十数人は戻って来た。皆手に手に、張り切って発育した、蓮の茎を抱えて、廬の前に並んだのには、常々くすりとも笑わぬ乳母たちさえ、腹の皮をよって、切ながった。