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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

教えたなど仰っては私めらが罰を蒙らなければなりません。

こんな事をくり返して居る間に、刀自たちにも、自分らの恃む知識に対する、単純な自覚が出て来た。此は一層、郎女の望むままに、才を習した方が、よいのではないか、と言う気が、段々して来たのである。

まことに其為には、ゆくりない事が、幾重にも重って起った。姫の帳台の後から、遠くに居る父の心尽しだったと見えて、二巻の女手の写経らしい物が出て来た。姫にとっては、肉縁はないが、曾祖母にも当る橘夫人の法華経、又其御胎にいらせられる――筋から申せば、大叔母御にもお当り遊ばす、今の皇太后様の楽毅論。此二つの巻物が、美しい装いで、棚を架いた上に載せてあった。

横佩大納言と謂われた頃から、父は此二部を、自分の魂のように大事にして居た。ちょっと出る旅にも、大きやかな箱に納めて、一人分の資人の荷として、持たせて行ったものである。其魂の書物を、姫の守りに留めておきながら、誰にも言わずにいたのである。さすがに我強い刀自たちも、此見覚えのある、美しい箱が出て来た時には、暫らく撲たれたように、顔を見合せて居た。そうして後、後で恥しかろうことも忘れて、皆声をあげて泣いたものであった。