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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

ただはじめにウイスキーと炭酸水を注文されたので係の者が、ウイスキーと炭酸水となおコップを二つ運んだきりでした。

丁度八時過ぎに、第七号室の外に当る庭をそこの洗濯女が通りかかりました。ところが中から男女がひどく争っている声がするのです。どうもその争いが真剣らしく聞えたので(と、その洗濯女は説明しました)そっと窓下に寄ったのです。その室は鎧戸がしめてありましたが、室内の燈ですいて中が少し見えたのです。

その時の有様についてその洗濯女はこういっております。

「鎧戸が閉めてはありましたが下してなかったので中の電気でわりによく室内が見えました。若い男女が三尺程隔てて向き合って立っています。双方ともひどく亢奮しているようでした。すると女の方が急に、

『もうこうなったら……殺しちまう!』

というと側にあったウイスキーの罎をとって男に投げつけようとします。男はいきなり女に飛びかかってその罎をとろうとしているようでしたが、女が死力を出しているらしく男も必死の様子でした。私がはっと驚いていると不意に男が、

『貴様、殺すぞ!』

と叫んでどちらの腕でしたか女の首に手をかけたようでしたが、全身の力をこめてつき仆したのです、私はもう恐しいのでその場をとんで廊下の方にゆき、誰か男の人を呼ぼうと立ち去りましたが、その時、室内で金物に何かが、