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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
成程、残された手紙によれば被害者は、被告人をしばしば脅迫してはいる。然し、それだからといって、事件の当日に被告人ののべるが如き調子で被害者が被告人に迫ったかということはいえない。更に、被告人は被害者が手切金を請求したと主張しているけれども、残された手紙には一つも左様なことが書いてない。成ほど、之は一見、有りそうなことである。然し有りそうなことだったからそうだったに違いないと誰がいえるか、被告人は請求に応じた証拠としてあの日ホテルに五百円の金を持参した事実を援用するけれども、取調の結果によれば被告人は平生三百円や五百円の金を懐中していたのであるから、この事実をもって直ちに被告人の主張を裏書するわけには行かない。
それに被害者から被告人にあてた手紙の中には、右の如く被害者にとって甚だ不利なものもあるけれども、同時に他方被害者が純情の持ち主であったと認められていい手紙も可なりある。果してこれを被告人のいう如く、女の手くだだとのみ見てよいものであろうか。
抑も、真に青年を恋して、しかも被害者の場合におけるが如き立場に立った十九歳の若き女が、小夜子がとったような態度をとるものであるか如何か、換言すれば、小夜子が、被告人に脅迫状を送ったことによって、彼女が真に被告人を恋していたかいなかったかという判断をつけ得べきもの