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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

八

土田氏はかく語って徐ろに一通の封筒を開いて読みはじめた。

八

土田八郎様

突然手紙を差し上げる失礼を御許し下さい。

あなたは、今私が真に信頼して私の心を打ち開ける事の出来る唯一の方です。そうして、もし私の信ずる所にして誤り無くば、あなたは私の今の気持を多少なりとも理解して下さるでしょう。心からお願いします。どうか終りまで読んで下さい。私は――私が何者であるかという事は後に明かに致します――此の手紙の中で、或る犯罪事実を述べたいのです。然しその前に特にあなたに申し上げたい事があります。

私は法律家ではありません。否、法律書の一ページをも繙いた事はありません。少くもこれから述べようとする或る事件が起るまでは。

あなたは無論法律家です。かつて検事であり、今は弁護士です。いずれにせよ、法律家たるに変りはありません。常に法律というものを中心にしてそれを繞って生活していられるわけです。

あなたはその法律が正義のために存在するものであるといわれるでしょう。然し果して法律は正義の味方でしょうか。法律は正しい者の味方をして、常に不正を懲しているでしょうか。或いはまた正しかった者を不正の者のためにはずかしめることはないでしょうか。