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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
私はその夜、殆ど一睡もせずにあかしてしまいました。
あくれば二十五日の朝です。私はかねての計画を実行する準備をしました。準備といっても着て行く外に一着の服をもって行くこととそれから帽子を余計に一つもって行くだけのことです。あとは現金ですがこれは全部懐中しました。そうして午前九時ごろに箱型のナッシュを引き出しました。
須山家の玄関で、来たことをしらせますと、暫らく待たされた後ようやく春一が出て来ました。これは一寸珍しいことで、せっかちの春一はこれまで決して車を待たしたことはありませんでした。それで私は外に待っている間、ことによるとM行きは中止になったんじゃないかとすら危ぶんだのでした。
此方が非常な計画を胸にいだいていたせいか、その日の春一の顔は何だかひどくいかめしく見えました。もし少し誇張したいい表わし方をすれば、決死の表情ともいえるでしょう。ともかくいつもの春一とは違って見えたのです。然し勿論これは私の気もちが通常でなかったからそう見えたに違いありません。彼は私が何者であるかも知らず、況や私の計画を知っているはずもなかったのですから。
彼を乗せて私は大東京を離れました。