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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

再び自分がある不愉快な思い出をもつ帝都に戻る時なきことを希望しつつ、しかして再び春一が帝都を見ることなきを期しながら!

午後三時ごろ車は無事に目的地に着しました。どのみち犯罪には――殊に私の行わんとする恐るべき犯罪には夜の来るのを待たねばなりません。私は春一の命ずるが儘に、××屋という家の前に車を止めました。

すると、六時すぎて不意に春一が宿の玄関に姿を現わしました。私はやや期待を裏切られた態でしたが、彼は帰るのではなく、更に五丁ばかり上にある××楼という旅館兼料理屋へと車をつけさせたのでした。

秋の日は暮れ易いものです。私はそこの家で夕めしを食べながら空を見ていました。温泉町の夕ぐれはあなたも知っておいでのように妙に人を感じさせるものです。しかし自分は今非常なことを決行しなければならぬと思い、一切の感傷的気分をすてて、用意にとりかかりました、この際の用意とは先ず酒を呑むことです。あなたはかつて春一がウイスキーを呑んでそれを理由に自分の罪を免れんとしたことをおぼえているでしょう。私の手もやや似ています。そうして私が二合や三合の酒を呑んでもびくともしないことは、丁度春一の場合と実は同様なのです。