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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

そのころ父が「源二郎」と呼ぶと、叔父は「はい」と答えて、ま夏にもかかわらず炭取を持ってゆくとか、冬のさなかに団扇を持ってゆくとかする。そこで単に「二郎」と呼んでみると、庭師をつれて来たり、台所から人蔘を一本持っていったりしたそうである。むろん番たびではないが、人の云うことを聞き違える、という弱点に自分で気がついたのだろう、それからはもっぱら自分で饒舌るようになった、ということであった。自分が主導権をにぎるためには、話し相手を飽きさせてはならない。そこで叔父はよく勉強したし、話術についてもくふうをかさねたうえ、独特のやりかたをあみだした。その一例をあげると、瓜を取りあげて、「これが虎の先祖だそうですな」という。聞いている者はびっくりするか、ばかばかしいと思うかの二者にわかれる。そこで叔父は本草綱目とか植物啓原とか賤爪木とか、そのほか聞いたこともないような書目を並べて、それを証明してみせる。しかも煙に巻くというのではなく、筋のとおった理論と裏づけがあるため、聞く者は「なるほど」と思い、虎は瓜から進化したものだと信じて、自分が賢くなったような気分になるのであった。