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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
彼は自分がはらをたてていないことに気づいた。鎌二郎は亡きお梶の腹ちがいの弟だから幾たびとなく会っているし、一本気で粗暴な性分もよく知っていた。けれども「姉のたましい」などと叫びだすほど、お梶を愛していたことはなかった。ではなぜあんなことを叫びだしたのか、「衣笠」がよいや、おりうの噂が弘まっていることは慥かであろう、だがそれだけではない。鎌二郎の無礼な罵倒に対して、園部の親や一族はなにもしなかったし、詫びごとを云おうともしなかった。
――おれが交代留守役だからだ。
留守役は他藩との政治的な折衝や、御用商人との交渉がおもな役目であり、しぜん招待の応酬で酒席にのぞむことが多い。それは「役目」であり、自分が望んですることではないから、飲む酒もうまくはないし、女たちに興味をひかれることもない。けれども他人にはそうとは思えないだろう、はたの者からみれば酒は酒であり、遊興は遊興なのだ。そればかりではない、「かれらは御用商人たちから賄賂を取っている」ということを、まじめに信じている者さえ少なくないのだ。
――それが今日の席であらわになった。
こちらの親族はどうしようもなかったろう。