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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「ここでも嫁菜というのはあるよ」

「だがそれは、春の双葉のころだけです、秋になって紫色の花が咲くころには、野菊と呼ばれるようになるのを知っていますか」

「そいつは知らなかった」と云って安宅は相手の顔を見た、「本当だろうな」

「おりうもそうなりかかっているんです、ちょっと待って下さい」芳村はいまこそ言葉を選ばなければならないというように、手酌で湯呑に酒を注ぎ、一とくち啜ってから、両手で持った湯呑を膝におろしながら云った、「いい寄ってくる男を手だまにとっていたおりうの中に、変化が起こりだしたんです、おりうも今年で二十四になりますからね、あたりまえなら子供の二人や三人はあってもいいとしごろです」

嫁菜が野菊になるようにか、と安宅は思った。おまえさんもまた、昔のおまえさんのままでいたわけじゃあないだろうし、ものごとをそう譬えに当て嵌めないほうがいいな、と思ったが、安宅は口にだしてはなにも云わなかった。

「失礼になるかもしれないが、袖ヶ崎へゆくのは益村さんでなくってもよかったと思う。おりうにとっては、好ましい相手なら誰でもよかったと思うんです」

「これは手きびしい」