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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

(よし)

と三十郎は心で思った。

(しめた! あそこから逃げられる!)

燈火のついている座敷の方へ、ジロリとばかり視線を送り、それからその座敷へ背中を向け、自分の横手に刀を構え、女だてらに狙っている菊女の、立ち姿へジッと眼をつけた。

「そこでもう一つ訊くことがある」

と、鵜の丸兵庫はおもむろに云った。

「なんと思ってこの家へ忍び、あのようなところに隠れていたのじゃ?」

「それは……」

と云ったが三十郎は、ヒヤリとせざるを得なかった。

が、すぐにもっともらしく云った。

「途中において松浦氏を――拙者を親の敵と狙う、松浦氏を見かけましたのでな、生かしておいては何かと邪魔、いっそ返り討ちにかけてやろうと……」

「極悪人め! こいつがこいつが!」

「アッハッハッ、善人で。ナーニ拙者は善人で」

「これ三十郎正直に申せ、我らの話、盗み聞いたであろう」

「え?」

とまたもヒヤリとしたが、さあらぬ様子で、もっともらしく、

「聞こう聞こうとあせったは確かで。が、距離が少しく遠く、それに貴殿方はヒソヒソ声、それに指などで畳の上へ字をかき、しめやかに話しておられましたのでな、とんと耳にははいりませんでしたよ」