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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「そうか」

と兵庫は安心したように云ったが、

「聞こうと聞くまいとどうでもよい。どうせ即刻討って取る汝だ! ……松浦氏」

と眼で合図し、

「こいつ悪智恵逞しく、このように大地に伏し仆れ、死骸同様じゃなどとほざいている以上、なかなか立ち上がりはいたすまい。……死骸でも構わぬ討ってお取りなされ。……といっても貴殿には気持ち悪うござろう、よろしい拙者一太刀加える! いかな卑怯なこやつでも、立ち上がって刀取るでござろう、そこを斬り伏せ復讐なされ。……参るぞーッ」

と兵庫は刀をふり冠った。

とたんに、

「蛇だ――ッ、蝮だ――ッ」

と、三十郎が怒号した。

「あれ――ッ」

とこんな場合でも、蛇だ蝮だと叫ばれては、女の身としては気味悪く、菊女は思わずそう叫び、思わず背後へ飛びのいた。

得たりとばかり飛び上がったのは、刀を拾いあげた三十郎で、さながら脱兎の勢いをもって、庭を突っ切り座敷へ飛び上がり、燭台を蹴仆し暗黒とし、座敷を縦断して表戸口へ走り、そこを駈け抜け露路を出で、そのまま姿をくらましてしまった。

その素早さ眼にもとまらず、兵庫も民弥も菊女も茫然と、佇んで見送ったばかりであった。