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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「チェッ」
と彼は舌うちをした。
恋する梶子が憎い民弥へ、女だてらに、口説きかけ、それを民弥が受け入れたらしい様子を、隣りの部屋から隙見した彼は、気を悪くせざるを得なかった。
(今夜あたりあの二人め、ほんとにしっぽり濡れるかもしれない。チェッ)
とまたも舌うちをした。
(さてどうしたものだろう?)
冷えた茶を急須から茶碗へしぼり、不味そうに唇をぬらしながら、行燈の光でぼんやり見える、床の間の掛け物へ眼をやりながら、彼は考えに沈み込んだ。
他にとるべき手段はなかった。
今夜民弥を叩っ斬り、梶子と人形とを奪い取るばかりだ。
(そうだ)
と彼は考えた。
(気の毒だがこの宿へ火をつけて、火事だ火事だと騒がせて、その混乱につけ入って、手なずけ連れて来たあばれ者どもと一緒に、民弥たちの部屋へ乱入し、一気に目的をとげてやろう)
あばれ者どもはこの宿の附近の、馬借宿に束にして泊めてあった。
(あいつらに逢って手筈をつけよう)
で三十郎はノッソリと立ち、深い編笠をスポリとかむり、玄関の方へはかからずに、庭下駄を穿き庭へ出で、裏木戸をあけて外へ出た。
すすけた行燈のともっている、馬借宿越後屋の門口へ、三十郎が姿をあらわしたのは、それから間もなくのことであった。