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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「わけはないように思われますが、帰って来ないところをみますると、わけがあるのでござりましょうよ」
昨夜の浜松の火事の様子や、松浦民弥があの火事によって、災難を受けはしなかったか? そんなことが心にかかったので、梶子は三十郎を無理に勧めて、配下の博労の由蔵を、今朝ほど早く浜松へやり、それらを探るようにさせたのであった。
その由蔵が今になっても、帰って報告しないので、梶子はジリジリしているのであった。
「例によりまして梶子殿には、松浦民弥殿の身の上になると、一生懸命でござりますなア」
三十郎は皮肉に云った。
このことが彼には腹立たしいのであった。
自分を親の敵と狙う、その民弥を恋しがり、梶子が夢中の態でいる! ……このことが三十郎には腹立たしいのであった。
と云うのは三十郎が梶子に対し、恋を感じているからで。……
「そうとも」
と梶子は思い切って云った。
「あたしゃア民弥さんに首ったけなのさ!」
この思い切った言葉というものは、梶子としてもこれまでにない、文字通り思い切った言葉であった。
(どうせ自分が民弥さんを、烈しく恋しているということ、三十郎は察しているのだよ。