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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「三十郎さんどうしたんだよ」
やがて梶子は笑いながら云った。
「お前さんらしくないじゃアないか。……思い込んだら是が非であろうと、想いをとげるのがお前さんの気象、それが中折れするなんて、少しヤキが廻ったねえ」
何んと大胆不敵のことか、暴力で体を穢されるのは、他人ではなくて自分だのに、人事かのようにそんなように云って、梶子は笑っているのであった。
「いやどうも、アッハッハッ」
三十郎は声に出して笑った。
「ほかのこととは事かわり、何んと申しても恋でござれば、いかな性急の三十郎も、そこまではどうも、そこまではどうも……」
「じゃア腕ずくは止めなのかい?」
「今のところは、止めでござります」
「いつになったら何をするのだえ?」
「気長くお待ちいたします」
「妾の心の靡くのを、気長く待とうというのだね」
「ざっとさようでございます」
「あたしにゃア一番迷惑さ」
「…………」
「あたしゃア人形の箱を持って、一日も早く京都へ行って……」
「やりませんな、京都へはやらぬ」
「といってこんな山の中に、いつまでもいられやアしないじゃアないか」
「わたくしとしましてはあなた様を靡かせ、女房にいたして江戸へ行き……」