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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

怯えた声で梶子は訊いた。

「ご心配なさるな、大丈夫で、民弥殿を討ちには参りませぬよ。……人形を調べようと存じましてな」

云い云い三十郎は人形箱の前へ、ノッソリと行ってしゃがみ込み、人形箱の蓋をあけ、男女の人形を取り出して、畳の上へ並べて据えた。

絢爛豪奢に出来ているところの、この人形は穢い部屋の中に、高貴高価そのもののように、燦然として静もっていた。

「立派なものじゃ、立派なものじゃ」

と三十郎は感嘆しながら、恍惚とした眼で見守ったが、

「伊豆守様より鷹司家の姫君、簾子様へ贈る品物とのこと、梶子殿さようでありましたな」

「そうなんだよ」

と云いながら、梶子も人形の側へ寄り、

「女雛の冠と男雛の太刀柄とに、はめこまれてある素晴らしい宝石、それが大変高価なもので、日本などには滅多にない品とか。そうだろうねえ光の美しさ、見ていてウットリとしてしまうよ」

「贈る人が贈る人、贈られる人が贈られる人、品物が立派で高価なのは、当然のことでござりましょう」

云い云い三十郎は手を延ばし、美しい物へは触れて見たいという本能、それで男雛の太刀柄にある、宝玉を指でまさぐった。

と、忽然と雛の胸へ、長方形の穴があいた。