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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
萩丸は足を止め恍惚とした気持ちで、娘の姿を眼で追った。
「伊織」
と萩丸はうつろ声で云った。
「山門の方へ行ってみよう」
「は」
と伊織は解せないように、
「山門の方から参りましたのに……」
「山門の方へ行ってみよう。……娘が……いやいや……行ってみよう」
萩丸はそっちへ歩き出した。
(変だなあ)と思いながら、伊織はその後から従いて行った。
(若い奴らは何をすることやら)
こう思いながら作右衛門も、ソロソロとその後から従いて行った。
と、そういう三人を、群集に雑って松浦民弥が、微笑を含みながら眺めていたが、
「菊女殿なかなかお上手じゃ。……とうとう萩丸殿をお釣りなされた」と、口の中で呟いた。
ところがそういう民弥の姿を、水茶屋の牀几に腰をかけて、眺めている妖艶の年増女があった。
めざましいまでに美しい女であった。
京都型とでも形容しようか、どっちかといえばふとり肉で、顎は二重にさえくくれていたが、それさえ美しく眺められた。身長も充分高かった。
この日は大店の内儀風に、その躰を装っていたが、櫛巻に絞りの浴衣、そういう伝法の姿をしても、金糸銀糸で刺繍をした裲襠、そういうもので飾っても、どっちも似合いそうな女であった。