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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

やがてこの日も夕暮れとなり、夕陽が森や林や耕地や、農家や山々に赤く燃え、その赤味も次第に褪せた。

と正面の敵の本陣たる森から、ドッとばかりに喊声が起こった。

その方面で戦いがはじまったらしい。

すると一方犬帰村の方からも、はげしい鬨の声が聞こえて来た。

そっちでも戦いが起こったらしい。

正面の敵へ向かったのは、鵜の丸兵庫を指揮者とした、明暦義党の一部の者と、青塚の郷民の一部とであり、犬帰村の方の敵へ向かったのは、松浦民弥を指揮者とした明暦義党の一部の者と、ここの郷民の一部とであった。

そうして本陣たる嘉門の屋敷へは、嘉門と菊女と萩丸と右内とが――郷民の一部と、女子供や老人などと残った。

(萩丸君を人質として、今はこっちの手に取ってある。城方と紀州藩との連合軍、どうして乱暴に攻めて来られるものか)

この考えがこっちにはあるので、まことに悠々たるものであった。

しかしこのことはまことに不幸にも、青塚方の考え違いであった。

というのは、城方連合軍では、梶子という女を利用して、萩丸君を連れ出させる、――ということになっていて、そうしてこのことは犬帰村方面の隊長、小林軍右衛門から使者をもって、大手から攻める自分達の味方の、これも隊長の志水但馬へ、既に以前告げてあった。