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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
仰天したのは二人の家来――皆川作右衛門と杉本伊織とで、
「殿、若様、いかがなされた!」
と、思わず大声で叫びながら、一散に露路へ駈け込んだ。
「アッハッハッ」
とそのとたんに、松浦民弥は往来に立って、思わず笑声を大きく立てた。
「菊女殿とうとう成功なされたわい」
菊女にもしものことがあったら、助太刀せよという兵庫の命により、見え隠れに尾行けて来た民弥なのであった。
うまうま菊女が成功したので、つい笑い声を立てたのである。
(お気の毒なは二人の家来さ、せっかく露路へ駈け込んでも、萩丸殿は行衛不明、そこでションボリ屋敷へ帰り、厳罰を受けるということになる……)
しかし民弥はヒヤリとした。
不意に横から女の声で、
「民弥様大変でございましたねえ」
と、こう云われたからである。
声の来た方を民弥は見た。
「あッ、あなたは梶子様!」
「お久しぶりでございますこと」
梶子が近々と立っていた。
露でも垂れそうなほど艶のある、びっくりするほど大きな眼へ、笑いと皮肉とを湛えながら、梶子は民弥を見詰めていた。
「綺麗な娘の後を追って、露路へ駈け込んで行かれましたは、紀州の萩丸様でございましたのね」