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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「変でござるな」
と小平が云った。
「変でござる」
と源兵衛も応じた。
「詭計でござるよ、油断はならない」
――するとこの時、彼らの背後の、ずっと遙かの林の方から、大勢の人声が聞こえて来た。
「それ!」
と源兵衛は飛び上がった。
「敵に背後に廻られましたぞ!」
「これは危険! 今夜はいけない! ともかくも一旦引き上げましょうぞ!」
小平が狼狽の色を見せた。
「引け!」
と源兵衛が怯えた声で叫んだ。
で、紀州の藩士たちは、怯気づいた足を空にして、算を乱して退いた。
遙かの林からやって来たのは三十郎の部下たちであった。
「馬鹿に騒々しい人声がするなあ」
「大勢の奴らが走って行くぜ」
「イヨー、向こうに火が見えらあ」
「あんな所に人家はなかった筈だが……」
「行ってみようぜ」
「行ってみろ行ってみろ」
小屋の方へ走り出した。
三十郎の部下たちは、明暦義党の人々や、青塚の郷民の建てたところの、小屋の前までやって来た。
見れば篝火は燃えていたが、人の影はどこにもなく、小屋の中にも人はいず、ただ食べのこした食物や、飲みのこした酒などが散乱していた。
しかし遙かの林の中を、二、三人の人影が海の方へ向かって、走って行くのが月光に見えた。