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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
由井正雪の遺業を継ぎ、倒幕の快挙をとげようとし、同志獲得に努めているところの、義党中での頭領株なのである。
土間を上がると幾個かの座敷で、その奥に大きさ三十畳敷きはあろうか、そういう広い部屋があったが、その部屋に一同は集まって、密議に耽っているのであった。
正雪筆に成るところの「至誠貫天」の四文字を書いた幅が、巨大の床の間にかかってい、その前に置かれた三方には、これも正雪が秘蔵したところの、楠木流の兵法の書が、巻軸三巻となって置かれてあった。
戸外に燈火の洩れるのを憚り、百目蝋燭一本を立てた、黒塗りの燭台が中央に置かれ、それを囲んで十数人が、各自の職業に似つかわしい姿で、端然と坐り静まっていた。
子の刻を過ごした深夜なのである。
「語るべきことはおおかた語り、云うべきことはおおかた云うてござる。この辺で決を取ってはいかが?」
さすが一党の首領だけに、鵜の丸兵庫は悠々とした態度で、こう云って一座を見廻した。
一座は寂然として声がなかった。
いずれも眼を据えて膝の辺を見詰め、考えにふけっているらしかった。
と、不意に柴田一角が、短気らしい語調で罵るように云った。