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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

と、突然闇黒となった。

松明がこの時燃えつきたのである。

暗黒の中で、骸骨にかこまれ、目前に巨財を置きながら、恋の想いをいまだとげないで、二人は窒息して死ぬのであろうか?

突然梶子は強い力で、民弥の躰を抱きしめた。

民弥はそれを締め返し、むさぼるように口づけした。

死を前にした恋であった。

この間にも呼吸は迫り、二人は抱き合ったままよろめいた。

足に触れるものは骸骨であった。

とうとう二人は抱き合ったままで、骸骨の中へ転がった。

あえぎ、もがき、這い廻り、どこかにわずかでも清潔な空気が、洩れて来るところはないだろうかと、それを探し求めるように、岩床の上をノタウチ廻った。

石棺の一つへ辿りついた。

その石棺に縋りつき、二人は尚ももがきつづけた。

鵜の丸兵庫と右内とは、松明で岩壁を照らしながら、尚洞内をさまよっていた。

今の乱闘で三十郎を逃がした。

それは仕方がないにしても、このような時に、このようなところで、意外も意外巡り合ったところの、同志の民弥や菊女とまで、言葉を交わせる暇もなく、チリヂリに別れてしまったことが、心外に思われてならなかった。

だからどうしてこのような処へ、どうして彼らがやって来たかも、この二人にはわからなかった。