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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

若い壮健な人間を見ると、反感ばかりが感ぜられるらしい。

「紀州の御曹司萩丸殿か、アッハッハ、何を馬鹿な、たかが大名の小忰じゃ、鶏を締めるように締めるがよろしい」

それから烈しく咳入った。

一座何んとなく鬼気に襲われた。

で、寂然と静かであった。

と、三十七、八歳の、足洗主膳が静かに云った。

「既に紀州の萩丸殿は、我らの手中にありまして、監禁されておりますれば、活かすも殺すも自由自在、でそう性急に命を奪うことに努力する必要はありますまい。……」

主膳は祖父以来福島家の家臣、福島家お取り潰しになってからは、ずっと浪人しているのであって、今はしがない売卜者として、両国辺へ店を出していたが、学問もあり思慮にも富んでいる、なかなか立派な人物なのであった。

「さようさよう」

と吉田彦六が云った。

「人の命を奪うは易く、助けて効を納めるのは難い、辛抱して効を納むる方、よろしかろうと存ぜられますな」

この彦六は慶安義徒の一人の、吉田初右衛門に有縁の者で、五十に近い年であり、業は寺小屋の師匠であった。年輩だけに穏健で、それになかなかの功利主義者でもあった。

「手ぬるい手ぬるい!」