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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「痒い!」

と思わず声を上げ、萩丸は床から立ち上がった。

が痒さは止まなかった。

数百の蚤が彼の体へ、一時にたかって刺すようであった。

腕から頸筋から背から肩から、ムズムズとはいり、シクシクと刺し、ピチピチと刎ねる気味の悪い、小動物の感触が、萩丸の心を狂わせようとした。

「ひどい蚤だ! どうしたんだ!」

萩丸は部屋中を駈け歩き出した。

蚤は益※(二の字点、1-2-22)数を増したらしく、頭髪にたかり眉にたかり、全身を掻き立てる萩丸の手の、十本の指にさえたかった。

萩丸は床をころげ廻った。

蚤は顔へも飛びかかった。

鼻の穴へ飛び込み耳の穴へ飛び込み、喚く口の中へさえ飛び込んだ。

「あッ」

と萩丸は声を上げた。

四方の壁を何物とも知れず、細長い動物がほとんど無数に、紐のように繋がって這っているではないか。音を立てずただウネウネと、壁に縞をなして這っている。

見る見る数が増して行って、壁は今にもその小動物に、全面を蔽われてしまいそうであった。

それは蜈蚣の大群なのであった。

と思う間もあらばこそであった。萩丸が茫然として佇んでいる床を、四、五寸ほどの小動物が、これも無数に右往左往しはじめた。