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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
、介抱されているという姿であった。
「おッ、そなたは!」
と思わず叫び、疲労と恐怖とで今も全身が、衰弱し顫えているその全身を、娘の方へいざらせた。
「娘じゃ! 娘じゃ! あの時の娘じゃ!」
「萩丸様!」
と菊女は云い、気の毒そうにまた不愍そうに、萩丸の顔を見守ったが、
「さぞまアお驚きでございましたでしょう! ……もう大丈夫でございます! この菊女が身に代えて、お守りいたすでござりましょう。……二度とふたたび恐ろしい、虫部屋などへはお入れしませぬ」
「菊女? そうか、菊女というか! ……菊女よ菊女よわしはどんなに、どんなにそなたのことを思っていたか! ……虫部屋! おおおお恐ろしい! ……生まれてはじめての恐ろしさ! ……もう充分だ、二度とは厭だ! ……二度とあのような目に逢おうものなら、わしは死ぬだろう、きっと死ぬ! ……菊女菊女助けておくれ! この屋敷からわしを逃がしておくれ!」
まだ十八歳の少年であった。
少年らしく萩丸は叫んで、姉のような菊女の腕へ縋った。
それを引き寄せその体を抱き、やさしく菊女は締めてやったが、
「何んのあなた様を二度とふたたび、あのような所へ入れましょう。