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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「他でもありませぬあの仁で、松浦民弥というあの仁で」
「バ、馬鹿な、何をいうんだよ!」
「それそれ、それがいけませぬ」
三十郎は意地悪い眼付きで、真正面から梶子を見詰めた。
「一度あの男の話になると、あなた様には血相変えて、弁解したり庇護なさる! ……これが臭い! ……臭うござる!」
――で、じっと見詰めつづけた。
梶子は何がなしにヒヤリとし、
(油断はならない)
と瞬間思った。
二人はしばらく沈黙した。
床の間に置いてある香炉から、相当高価らしい香の匂いが、煙りと共にただよって来た。
飼い猫が庭から縁へ上がり、梶子の膝へノッソリと上がり、そこで香箱を作ってしまった。
「そこで」
と三十郎はどうしたものか、白い前歯を覗かせて、幽かに苦く凄く笑った。
「そこで拙者思いましたよ。……拙者がもしもあなた様を恋し、その恋心いよいよ募り、どうにもならなくなりました際には、邪魔な恋敵のあの仁を、まず真っ二つに叩き斬ると!」
「三十郎さん!」
ととうとう梶子は、がまん出来ないというように、癇癪らしい声を立てた。
「馬鹿も休み休み云うがいいよ! ……いったい何んだいお前さんは! ……いえさいったいお前さんは、あたしの何んにあたるんだい! ……たかが附け人、用心棒だよ!」