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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

令嬢紛失

――現に今夜も僕はもう帰ろうとして居るところさ、あの旧式政治家や実業家のジェスチュア沢山の宣伝気の抜けない座談を聴かされると、尾籠な話だが吐気を催して敵わない」

「羨ましいな、僕もそう勝手に振舞える身分になり度かったよ」

「左様なら、では二三日のうちに、又逢おうよ」

二人は手を振りました。千種十次郎は玄関の方へ、潮田春樹は元の広間へ――。

令嬢紛失

千種十次郎が外套を受取って、玄関の外へ一歩踏出した時でした。

ワッハッ、ハッ、ハッ、ハッ。

――と恐ろしく大きな笑いが、何処からともなく響いて来たのです。

それは皮肉で陰惨で、人を馬鹿にしたような声で、そのくせ残酷で猛烈で虚無的な響さえ持って居りました。その途方もなく大きい笑いが、三階のあたりから起って、歓楽の残滓を嘗めて居る三十幾人の客の頭の上へ、何んの遠慮もなく浴せかけたのです。

「お嬢様のお部屋が変でございます」

三階から一人の若い女中が転がるように降りて来ました。お駒と言って二十二三の、奈々子の気に入りの、賢こそうな娘です。

「それッ」

廊下の隅、階段の下、扉の蔭などに待機して居た私服警官と家の子郎党共は、一瞬のうちに五六人、三階正面の奈々子の部屋の扉に飛付きました。