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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
阪急の蘆屋川駅なども、以前にあったフォームが土砂に埋没したので、土砂の山の上に仮のフォームを設け、橋の上に又高い橋を架けて、そこへ電車を走らせるような工事を始めた。その阪急の橋と、国道の業平橋に至る間は、川床が殆ど両岸の道路の高さに持ち上ってしまって僅かな雨にも氾濫する危険が感じられ、一日も捨てて置けないので、大勢の土工が幾日も幾日も土砂を掘り返していたが、蟻が砂糖の山を崩すようでなかなか埒が明かず、あたら堤防の松を砂煙で汚していた。それに生憎と、水禍から以後はすっかり天候が恢復して日照りがつづくので、一層埃が立ち迷って、名だたる高級住宅地の蘆屋の風致も、今年ばかりは見る影もなかった。
雪子がざっと二箇月半ぶりに東京から戻ったのは、そう云う埃っぽい夏の一日のことであった。
東京では水害のあった当日、夕刊にその記事が出たけれども、委しい様子が分らないので渋谷の家では可なり心痛したのであった。新聞で見ても、住吉川と蘆屋川の沿岸が最も被害激甚であることは明かであったが、甲南小学校の生徒の死んだことなどが載っているのを読んだ雪子は、何よりも悦子の安否を知りたかった。