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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
けれども猶よく話して行くと、幸子のこの推察は半ば当っているようでもあり、半ば外れているようでもあった。彼女は妙子が他から説得されるのでなしに、自発的に奥畑を見限るようになってくれれば、それが一番望ましいことでもあるし、又妙子にはそのくらいの分別はあるものと信じてもいたので、なるべく気に触ることは云わないようにしながら、少しずつ遠廻しに尋ねただけなのであるが、それが果して本心なのか、負け惜しみの見せかけなのかははっきりしないけれども、妙子が表面何気ないようにして洩らす言葉のふしぶしを綜合すると、兎に角今のところでは、奥畑を見限る心などはなく、矢張近い将来に彼と結婚する気でいるものと判断するより外はなかった。彼女に云わせると、自分は今日では啓ちゃんと云う人間が典型的な船場の坊々であって、ほんとうに取柄のない詰まらない男であることを誰よりもよく知っているので、今更そのことについて貞之助兄さんや中姉ちゃんに注意を受ける迄もない、尤も、今から八九年前、始めて啓ちゃんを恋した頃には、自分はまだ思慮の足りない小娘であったから、実は啓ちゃんがこんな下らない人間であるとは知らなかった訳であるが、しかし恋愛と云うものは、相手の男が見込みがあるからとか、下らないからとか云うことのみで、成り立ったり破れたりするものではあるまい