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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

十五

と、自動車は道玄坂を殆ど上り切ったあたりで、左の方の閑静な住宅街へ曲って行ったが、途端に十歳ぐらいを頭に、二三人の子供達がバラバラと車を取り巻きながら駈けて来た。

「叔母ちゃん、叔母ちゃん」

「叔母ちゃん、叔母ちゃん」

「お母ちゃん待ってはるで」

「僕の家すぐそこやで」

「危い、危い、もっと其方へ寄ってなさい」

と、徐行し始めた車の中から雪子が云った。

「あれ、姉ちゃんとこの子達かいな。―――あの一番大きいのん、哲雄ちゃんか」

「秀雄ですよ」

と、輝雄が云った。

「―――秀雄と、芳雄と、正雄ですよ」

「みんな大きゅうなったわなあ。大阪弁使うてくれなんだら、何処の子達やら分らへん」

「彼奴等みんな東京弁が巧いんだけれど、叔母さんに歓迎の意を表して、大阪弁を使ってるんですよ」

十五

渋谷の姉一家の生活の様子は、毎々雪子から聞かされていたけれども、子供たちのために何処の部屋も乱雑にされ、足の蹈み場もないくらいに取り散らかされている工合は、想像の外であった。なるほど家は新建ちであるから、明るいと云えないことはないが、柱の細い、根太の悪い、見るからに粗末な借家普請で、子供たちが梯子段を駈け降りてさえ家じゅうがぐらぐらする。