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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

二階には八畳に三畳の次の間と、廊下を隔てて四畳半とがあって、その四畳半に輝雄と哲雄が寝ていたが、起きて来て八畳の間を覗きながら、叔母ちゃん、下へ行きませんか、と、輝雄が誘った。下へ行った方が幾らか安全じゃないでしょうか、ねえ、下へ行きましょうよ、下でもみんな騒いでいるようですよ、―――停電していて真っ暗なので、輝雄の顔は分らなかったけれども、そう云う声に尋常でないものがあった。幸子は悦子を恐がらせまいために口に出すことを控えていたのだが、この家が倒潰しはしないかと云う危険はさっきから感じてい、屋台骨がぐらぐらする毎に、今度こそ今度こそと思って冷汗を湧かしていたところだったので、輝雄の言葉を聞くと一も二もなかった。雪子ちゃん、悦ちゃん、下へ行こうと云って、彼女を先頭に、三人つながりながら輝雄のあとに附いて階段を降りかけたが、途中まで来た時、今度こそ家が潰れたかと思う一陣の風が家を揺すった。彼女の感じでは、平生でもミシミシ撓うヘギのような梯子段が、両側から帆のように膨らむ壁と壁に挟まってメリメリ壊れかけて来たと思えた。柱と壁の隙間が離れてそこから風が砂塵と共に吹きつけた。