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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

調べたとか証拠があるとか云っていながら、その証拠を一つも明示していないのは、ただ奥畑の漠然とした疑念に過ぎないのであろうか。そう云う間違いが起ってはならないと思って、わざと大袈裟に警告しているのではないであろうか。奥畑はどう云う方法を以て事実を探ったのか知れないが、たとえばこいさんが板倉と二人で海水浴に行ったなどと云う「事実」はない。自分はいくら気を許しているからと云って、そんな不取締りなことはしない。板倉と二人きりで行ったのは悦子である。こいさんが行った時は、いつも自分達、―――雪子や悦子などが一緒であった。その外の時でも、こいさんと板倉と二人きりでいたことは余りなかった。自分達は別に監督すると云うような気持ではなしに、板倉の話が面白いので、彼が来れば大概その周囲に集ったが、こいさんや彼の素振を怪しいと感じたことは一遍もなかった。要するに、奥畑は近所の無責任な噂か何かを基にして、勝手な幻影を描いているのではないであろうか。………

幸子は、努めてそう云う風に考えて打ち消してしまいたくはあったが、それでも、さっきこの手紙を読んだ瞬間、何かしらはっと胸を衝くものがあったことも否めなかった。