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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
………」
「今年のうちに何とか極まらんと、来年は厄やさかいにな」
「そない思うて、方々へ頼んであるねんわ。………」
「左様なら、姉ちゃん」
と、悦子がデッキへ上って来て薔薇色のジョウゼットのハンカチを翳した。
「今度はいつ来る、姉ちゃん」
「さあ、いつ行けるか知らん。………」
「早う来てね」
「ふん」
「きっとよ、姉ちゃん、………ええか、きっとよ、………」
寝台は上段が一つに下段が二つ、続いた番号のが取れたので、悦子とお春とを向い合せに寝かすことにして自ら上段を選んだ幸子は、直ぐに上って長襦袢のまま横になった。どうせ足腰を伸ばすだけで、眠れないことは分っているので、無理に眠ろうとも努めなかったが、ぼんやりと眼をつぶっている眼瞼の裡に、今しがた姉と雪子の涙を溜めながらじっと此方を見送っていた顔が、いつ迄も浮かんでいた。考えて見ると、先月の廿七日に立ってから今日で十一日になる訳であるが、今度の東京滞在ぐらい、落ち着かない、そわそわした旅行をしたことはない。最初は姉の家に泊って子供達が騒ぐのに悩まされた揚句颱風に脅やかされ、這う這うの体で浜屋へ避難してほっとする暇もなく奥畑の手紙で爆弾に見舞われたような思いをした。