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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

いくらかでもゆっくりしたのは、姉と一緒に大黒屋へ行った日一日ぐらいなものであった。でもまあ、杉浦博士の診察が受けられたので、一番大切な用件だけは果たすことが出来たようなものの、とうとう芝居一つ覗かないでしまった。そして昨日から今日へかけては、埃っぽい東京の街を日中に彼方此方歩き廻って大活躍をした。ほんとうに何と云う目まぐるしい二日間だったろう。僅かな時間にこんなに方々駈けずり廻るなんと云うことは、全く旅先ででもなければ出来ることではない。彼女はそう思うだけで疲労が一層身にこたえた。何か、高い所から抛り出されでもしたようで、臥ると云うよりは打っ倒れている気持であったが、それでいて眼は冴えて来るばかりであった。ブランデーを舐めたら幾らかとろとろ出来そうでもあったが、起きてその罎を取り出す気力もなかった。彼女の眠れない頭の中には、帰宅早々自分の裁断を待っている厄介な事件、―――昨日からの持ち越しの問題が、さまざまの疑念や憂慮の形を取って結ぼれては消えた。あの手紙のことは確かに事実なのであろうか。………事実であったらどう処置したらよいであろうか。………悦子は何か変に思ってはいないであろうか。