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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
三人の画家に下絵を画かせた日本三景の三枚襲ねで、一番上は黒地に厳嶋、二枚目は紅地に松嶋、三枚目は白地に天の橋立が描いてあるのであった。今から十六七年前の大正の末年頃、姉が結婚した時に一度手を通しただけの衣裳であるから、殆ど新しい物と同じようにしゃんとしているのであるが、故金森観陽の筆に成る橋立の景色の一と襲ねに、黒繻子の帯を締めた妙子は、化粧の加減か、いつものような娘らしさがなくなって、大柄な、立派に成育し切った婦人に見え、そう云う純日本式のつくりをすると、顔が一層幸子に似て来て、ふっくらと頬のふくらんだところに、洋装の時には見られない貫禄が添わっていた。
「写真屋さん、―――」
と、悦子は、階段の中途に立ちながら二階の廊下へ首だけ出して妙子の姿を覗き込んでいる二十七八の青年に云った。
「―――あの、何卒這入って下さいて」
「『写真屋さん』云うたら悪いわ、悦ちゃん。『板倉さん』云いなさい」
妙子がそう云っている暇に、板倉は「御免やす」と云いながら這入って来て、
「こいさん、その儘じっとしてとくなさい。―――」
と、直ぐ閾際に膝を衝いてライカを向けた。そしてつづけざまに、前から、後から、右から、左から、等々五六枚シャッターを切った。