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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
二十九
口数の少い、いるのかいないのか分らないようにひっそりしている雪子が一人殖えたからと云って、格別家の中が賑かになる訳もないのだけれども、こうして見ると淋しい彼女の人柄の中にも、矢張明るさが潜んでいるのであろう。それと一つには、三人の姉妹が同じ屋根の下に集ると云うことが、それだけで家の中に春風を生ぜしめるので、この三人の中の誰が欠けても諧調が失われるのであろう。そう云えば、あれから長い間空家になっていた旧シュトルツ邸も、漸く借り手がついて、夜な夜なコック場の硝子戸の中から燈火が洩れるようになった。主人と云うのは瑞西人だそうで、名古屋の或る会社の顧問とかをしていて、始終留守がちであり、家には、姿は西洋人臭いけれども容貌はフィリッピン人か支那人のように見える若い夫人が、アマを使って暮していた。子供がないのでシュトルツ時代のような陽気さはなく、森閑と静まり返っていることが多かったが、それでも、垣一と重向うの、荒れて化物屋敷じみて来かかっていた洋館に、人が住むようになったことはえらい違いであった。隣家に再びローゼマリーのような児が来てくれることを望んでいた悦子は、その点では失望したけれども、既に彼女には同級生の親しい友達が何人も出来ていて、少女は少女なりに、お茶の会とか誕生日のお祝とか、彼女達だけの交際社会を形作っ