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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

「あんさん、どないです」

「僕今下で食べて来た。―――こいさんそんなに食べてええのんかいな。『腹が減っては戦が出来ぬ』云うことは聞いてるけど、舞を舞うのんにお腹張ってたら苦しいことないやろか」

「そうかて、この人、お昼御飯もあんじょう食べてえへんのんで、ふらふらで舞うたら引っくり覆る云いますねん」

「文楽の太夫は語ってしまうまで何も食べん云うやないか。舞と義太夫とは違うにしたかて、あまり食べんと置く方がええで」

「兄さん、うち、そんなに食べてえしませんねんで。口紅に触らんように少しずつ何遍も持って行くよってに、たんと食べてるみたいに見えますねん」

「僕さっきから、こいさんのお鮨食べはるのん感心して見てまんねん」

と、板倉が云った。

「何で」

「何でて、こう、金魚が麩ウをぱくつくみたいに、口を円くあけはって、えらい窮屈そうにしながら、そのわりにたんと食べはりますな」

「何や、人の口元ばかり見てる思うたわ」

「そうかて、ほんまやわ、こいちゃん」

と、悦子が声を挙げて笑った。

「そんでも、こないして食べるもんや云うこと、教せてもろてん」

「誰に」

「おッ師匠はんとこへ来る芸者の人に。